種を蒔く、根をつくる

老いてゆく人たちのなかに、もし、種を持つ人があれば、その種はしっかり蒔いて欲しいと思います。

丁寧に蒔く必要などありません。

あちらこちらに、四方八方に蒔けばよいのです。

ぼろぼろと落として歩けばよいのです。

ある種は石の上に落ちるかもしれません。その種は、そのまま朽ちるでしょう。

ある種は、乾いた土くれの上に落ちるかもしれません。その種も、やがて、乾ききって消えていくでしょう。

ある種は、養分のない土の上に落ちるかもしれません。その種は、その土が養分を持つのを待たなければならないでしょう。

ある種は、養分のある土の上に落ちるでしょう。そのようなところに落ちる種は、わずかかもしれません。
しかし、その種は、養分を得て、なおいっそうの養分を求め、根を出し、その根を伸ばしていくでしょう。

たくさんの根を、大地の中に、育てていかなければいけません。

日本人という大地の中に、根を育てていかなければいけません。

新しい根が必要とされています。

今、よわよわしい根があって、そこから生えた幹の細い木ばかりが、さわさわと音を立て、造花のような花を咲かせ、無機物のような種を落とし、無機物のような根と芽を出させています。

しっかりとした根を大地に育てていくような種を、今の日本人は、必要としています。

種を持つ老いた人たちは、大いにその種を蒔かなければいけません。