一人旅だけどちょっと誰かと話をしたい

旅は楽しい。

 

しかし、旅にも色々ある。

 

一人旅、二人旅、仲間旅、グループ旅、ひま旅、仕事旅、イベント旅など色々だ。

 

でも、ここでは一人旅の話。

 

一人旅は、日々の喧騒から離れるという魅力がある。

喧騒というのは、別に大都会の喧騒だけではない。

小都市であっても、田舎であっても人付き合いという喧騒さはある。

日々のせわしなさも喧騒の一つだ。

人への気遣いや、関係の複雑さも言わば喧騒さなのだ。

純粋な自分になれないのも喧騒さゆえと言ってもいい。

 

そうした喧騒からしばし離れるのは、一人旅の魅力の一つだ。

しかし、一人旅には、これにつきものの寂しさというものがある。

ここにちょっと何かが入ってくると、忘れない旅の思い出が形成される。

それが、見知らぬ誰かとの対話だ。

 

挨拶程度のちょっとした対話。

それが、ほんのわずかな時間であったとしても、妙に記憶にとどまり続ける。

どうしてだろう。

 

日頃の人間関係でも、色々と人とおしゃべりをしているはずなのに。

 

少し硬い表現をすれば、旅先の見知らぬ人との関係には、まず、利害関係がない。

損得関係がない。

危害を与えられたり、与えたりする緊張関係がない。思いやったり思いやられたりの気遣いの関係がない。

そして、新鮮だ!

 

人は、一人旅という開放感、孤独感の中でも、やはり誰かを求めていたりするものだ。まさに、「人間だもの」なのだ!

 

だから、一人旅でどこかに旅するとしても、ちょこっとおしゃべりできるところがあったら、なんとなく、ほんわかと嬉しかったりする。

だから、それが目的でなくても、立ち寄る先にそんなところが一つでもあれば、なんとなく嬉しくなったりするのだ。

 

四国には、四国巡礼というのがある。いわゆる弘法大師ゆかりの八十八番札所参りだ。これに遍路宿と言われるような、巡礼客をもっぱらの客とする宿がある。こういうところでの、人との出会いなども、興味深い。また、お接待という土地の人からの施しを受ける関係もあったりする。あるいはまた、巡礼をしている人との行きずりの出会いがあったりする。まさに一期一会の出会いの経験のようでもある。

 

四国、香川県多度津町には、「てつがくや」というちょっと変わったカフェがある。土日の午後しか開いていない店で、ちょっと変わった店だ。まず、看板がない。店はまあまあ広いとは思うが、カウンター席が中心だ。客はちょこっとやってきて、オリジナルのコーヒーや紅茶を飲みながら、店の店主とおしゃべりをして帰っていく。店内には、「てつがくや」と言うだけあって、ほんの少し固そうな本もたくさん並んでいて、それらを黙って読んで帰る客もいる。はたまた、その店で初めて出会って、おしゃべりに興じて帰っていく客もいる。(この店を知るには、インターネットで「tetugakuya」あるいは「てつがくや」で調べてみるといいだろう。JR多度津駅から歩いて10分くらい。車では一方通行道路に面しているので要注意だ。)

 

一人旅の人は、そんな店に、旅の途中にちょこっと寄ってみるといい。

しかし、是非とも、勇気を出して、正面のカウンターに座らなければならない。

これができなければ、ほぼ何も始まらないのだ。ただの挨拶程度で、ちょっと変わったカフェに入ったという記憶しか残らないだろう。

正面カウンターに座って、店主とぜひ旅のおしゃべりをするといい。

話のきっかけをどう掴むか。

なんということはない。

「この店に初めて来ました。旅の途中なんです。」と言えばいい。

たった、それだけで、話は弾んでゆくだろう。

うまくゆけば、そのあたりの客とも行きずりのおしゃべりを楽しむことになるだろう。

 

一人旅は楽しい。でも、ちょっと寂しい。

だから、

旅をした時に、ちょっと立ち寄って、対話のできる店があれば、

一人旅は清々しくも一層楽しい、一層思い出に残る、本当の自分に帰る旅になるに違いない。