忠霊塔のこと

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これは、イギリスのある町の公園にあったモニュメントです。

「PRO PATRIA」  ラテン語で、「祖国のために」という意味だそうですが、この塔の後ろには、これらの戦争で命を亡くした幾人かの人たちの名前が刻まれています。

イギリスでは、各地の町の公園に、こうしたモニュメントが見られます。

こういうものを見ると、子供のころの記憶がよみがえります。

子供のころ、仲間たちと遠出をして、よその村へ行ったときのことです。

地方のことですから、田んぼの中やあぜ道を歩いたり、走ったりして行くのですが、小学校や中学校の校区から離れると、それは緊張したものです。子供のときには、どこか縄張り意識のようなものがあって、よその地域の子供たちを恐れるのですね。みな、当時は徒党を組むって感じでしたから。

そして、知らない村の、少し大きな神社の近くで、高い高い塔を見つけたのです。私たちのところは地方でも少しは町でしたので、そうしたものを見るのは初めてのことでした。

そして、その塔の基礎の周りには、大きなコインほどの大きさの丸いガラスがたくさんはめられていて、そこには、男の人たちの顔写真が一つ一つ並んでいました。たくさんの顔がありました。子供ながらに、戦争で兵隊に行って亡くなった人たちだと、すぐに悟りました。

これを、年上の子供は、忠霊塔だと教えてくれました。もちろん、私はその意味はわかりませんでしたが、霊という文字が見えましたし、それらの写真からどこか怖いような心細さを覚えて、そのたくさんの顔写真の記憶が心に刻み込まれたのでした。

大人になって、あるとき、何気なくその塔へ行ったことがあります。あのたくさんの顔写真をもう一度見たいと思いました。ところが、すべて、それらはなくなっていました。私の記憶に残るものが、まるで子供のころの夢であったかのように思いましたが、そんなはずはないのです。

忠霊塔とは、辞書によると「忠義のために生命をすてた者の霊魂をまつる塔」とあります。国のために亡くなった人たちと言ってよいでしょう。

よその国で、写真のようなモニュメントを見るたびに、私は子供のころに見たあの忠霊塔を思い出すのです。

イギリスのモニュメントを見ると、、「祖国のために」とありますが、南アフリカの戦争でなくなった人たちのものもあります。それなどはまさに他のヨーロッパの国と、南アフリカの人々の地を奪い合った戦争なのです。

国のために命を落としていった人たちのことを、その後に生き残っている、また、その後に生きている同国の者が忘れないようにすることは、大事なことだと思うのですね。

おそらく、どの国においても、それは普通のことだと思います。そうした心を知的にゆがめてしまうと、母国、祖国を思う気持ちを失わせると思うのです。

国や祖国や妻や子供や親や愛する人のことを思いながら、抗し難い力の中で、間違いなく、生きるはずだったいのちを落としていった人たちがいるということ、忘れてはいけないと思います。

イギリスの公園で見たこの塔には、今も新しい花が添えられていました。