正座で座る位置

最近では、正座をすることもめっきり減りましたなあ。正座は、すぐ足がしびれますから、なかなかつらいのです。特に、しばらく座っていて、立ち上がるときには気をつけなければなりません。

さて、これは以前にあった出来事からのお話ですじゃ。

あるとき、少々遠い田舎の親戚筋で法事がありましてな。

あれは、夏の終わりでありましたかなあ。つくつく法師が鳴いておりましたなあ。
かれこれ20人くらいおりましたでしょうか。
昔の家でしたから、ふすまも取り払って、ガラス戸も大きく開けて縁側のそばまで人が座っておりました。なかに、子供連れの方もおられましてな。
私などは、少々遠い親戚でしたから、後ろの方におりましたが、子供たちも後ろの方におりましたなあ。

さて、
焼香も終わり、お坊様のお経もようやく終わって、お坊様が去った後のことですじゃ。

座っていた人たちが、ばらばらと立ち始めましてな。ご承知のように、こういうときには、立ち上がるときに、よろよろっとされる人もおりますなあ。これを面白がってはいけませんぞ!失礼ですからな。
でも、
おかしいときには、やはり、おかしい。(ククククク・・・)

私なぞも、ああいうおかしな立ち上がり方はしたくないと思うものじゃから、まずはあぐらをかいて、目立たぬように両足首なんぞをぐるぐる回して準備運動をしておりましたな。

その時、横を見ると、ちょうど縁側近くに座っていた中学生のお兄ちゃんが立ち上がろうとしておりましてな。危なげだったので見ておりましたんじゃが、片足を立ち上げて、もう片足を立ち上げようとしたそのときですじゃ。
みごとにコロンとひっくり返りましてな。いやいやこれはみごとと言っては失礼じゃが、本当にコロンと行きましてな。しかも、縁側へコロンといって、さらに一瞬姿が見えなくなって、庭へまでコロリン、コロリンと転がりましたなあ。

私は、一瞬、「クククク」と噴出しそうになりましたが、そこは我慢ですじゃ。本人にも、親御さん方にも失礼ですからな。
そこで、わたくしは、おもむろに、しかし、注意深く立ち上がって、少年がコロンと転んだ縁側へ行き、「だいじょうぶか!」と声をかけ、そそくさと便所へ行きましたんじゃ。
そこで、「ククククク、ガハハハハ、ヒヒヒヒヒ」と声を押し殺して、笑ってしまいましたんじゃ。

わしの笑い声は聞こえんかったと思うが、
少年よ、すまん、失礼した!

彼も、今では一人前の青年になっておるだろうが、あのときの教訓は生かせておるだろうか。
正座をするときには、転げ落ちるようなところには座らぬことですじゃ!