商人道(石田梅岩の訓え)

商人というものは、かつて武家社会の時代には、物を生産せずして生活の糧を得る卑しい身分とされ、士農工商として下位に位置づけられました。

そのような時代にあって、石田梅岩は商人のあるべき道を説きました。しかし、考えますと、現代にあってこの訓えは、何も商人に限るものではありません。

商売人はもとより、働くあらゆる人々にとって、また、後に働く者となるすべての青少年にとっても学ぶべき、教わるべきことと思います。

実(まこと)の商人は先も立ち、我も立つことを思ふなり。
石田梅岩『都鄙問答』)

他人が喜び、幸せとなる物を売る。他人が喜び、幸せとなるものを提供する。他人が喜び、他人の幸せを見て、我が喜び、我が幸せと為す。一心にそれに励む。

石田梅岩は、そのように教えています。

お客さんに少々嘘を言ってでも利益を得ようとする。
「ありがとうございました」という言葉の後ろに、「しめしめこれでまた儲けた」という心がある。
こうした商売、ビジネスはそう長くは続かないでしょう。あるいは、いつまでも安心の得られない商売でしょう。
お客さんが「ありがとう。あれはよかったよ!」とか「おいしいねえ!」と心から言ってくれるものを提供してこそ、その商売は続き、また、繁盛の道を歩むものと思います。

そういう意味では、商売人は商売人で世直しをする人でもあります。

石田梅岩の訓えの大元は、商人に限りません。そこには、あらゆる者のより善き生き方につながる訓えがあります。