私欲をもって行動する

今の時代、気をつけなければ、いつの間にか利害ばかりで物事を考えるようになってしまいます。

今日は、損得で物事を考えない者は馬鹿者のように見られる風潮がありますから、なおさらそうですね。

利害のことを考えるだけならまだよいのですが、自分がどうするかの判断の時に、この利害損得ばかりを基準にして行動するようになると、やがては大きな災禍を受けるようになります。

だいたい、誰だってそういうことは知っているはずなのですが、わが身の利欲ばかりで考える癖をつけてしまうと、本来知っているはずのことがわからなくなったり、それを考えないようにするようになってしまうのです。

欲が欲を呼べば、人はますますそうなります。

誰かが、正しい道を教えても、もう聞く耳を持たないほどの人間になってしまいます。

日ごろから、損得に関わる身の処し方には用心しなさい、ということなのでしょう。

できるならば、日ごろより、損得で動かない自分でいるように、心がけておくべきなのでしょう。

人生そのもので考えるならば、こんなことは、言うまでもないことですね。

世に細々と生きている者も、大きな富を持って生きている者も、社会的に名のある者も、このことは同じです。

社会的に事を為す者が、こういう心の囚われで行動する場合には、災禍はわが身どころか人々や国家にも及んでしまいますから、事態は深刻になります。


世に大事を成そうとすれば、先ずわが心の内を省みることが第一です。そこに一点でも名利欲・権勢欲などの不純なものがありはしないかと、つねづね反省してわが身を修めることが大切であります。
世の中には、このような反省のひとかけらもなく、一気に世の革新をはかろうとして行動に移す者がありますが、実は外を責める心が強ければ強いほど、内を責める心もそれだけ強くなければ、その行為は真に正しいものとはいえません。(岡田武彦『東洋のアイデンティティ』)

大きなことをする人は、よほど気をつけていただかなければなりませんが、そういう人でなくとも、ささやかなわが身一つとしても、気をつけて生きたいものです。