自然を愛する国民?

・・・口を開けば、日本人は自然を愛する国民だという。

それも嘘だ。

外国には自然自体を対象とした一流の文学作品がある。日本にはないとはいわないが、非常に数が少ない。

ふんだんに、優れたものとして残されているのは、自然自体を描いたものではなく、自然にこと寄せて、人間感情を表現したものばかりなのだ。・・・
              (高橋治さんのエッセイより)


後段の文学論については、

なるほど・・・そうかもしれないと思う。


そして前段の日本人が自然を愛する国民ということの嘘については、大いにそう思う。

昔よく見た農村・漁村の光景で思い出すものがある。

川や海岸にけっこう平気でごみを投げ捨てているのは、その界隈に住む人たちだった。


故郷の海は、今も地元の子どもたちの遊び場だが、それでも目の前に波消しブロックが積み上げられ、一文字に並んでいる。小さな子どもたちは、それを当たり前の海岸と見て育ち、大人になっていくのだろう。

郊外の田んぼにひかれた水路は、いつの間にかきれいなコンクリート製になってしまった。そして、子どもたちの目には、当たり前のコンクリート製灌漑用水路として、それが自然な光景になるのだろう。

我々は、自然を愛する国民ではなく、ただ、自然に恵まれた国民というに過ぎないのかもしれない。