痴呆高齢者の介護

回復の見込みのない、限りなく死に近づきつつある生身の肉体と付き合ってゆかねばならないのはたいへんだ。

それでも、言葉が話せるなら、あるいは愛想笑いの一つでも返ってくるのなら、介護する側の気持ちも和むこともあるだろう。

人間らしい反応がほとんどないというのは、秋風のなかに一人たたずんでいるようなむなしさをいつも作り出す。

猫に餌を与えるよりもやりがいのないその作業を、若者がするとしたらどうだろう。

おっくうになっても仕方がないか。

まだまだ明日を楽観して生きたい年頃の者たちにとって、背後に明らかな死の影が見える人間に食物を与え続ける行為は、徒労感のみを植えつけられることになるのだろう。

この介護対象者は、明るい未来の存在を否定する反面教師なのだ。

しかし、まだ未来を信じすぎる若者にとって、それを理解するのは難しいのかもしれない。

(参考:南木佳士スイッチバック」『冬物語』)