辛抱強く

昔の教訓話です。


ある正直でまじめな男が、店で働いていました。

その男はその店で何年か勤めた後、自分で独立して店を持つことに決めました。

翌日には店を出るという日、その男は主人に呼ばれました。

そして、主人は男に、こう言いました。

「これまでまじめによく勤めてくれたが、独立してやっていくとなると格別の心がけが必要になる。それで、今後、家運というものを起こすための方法を教えてあげよう。」

そう言って、主人はその男を井戸のそばまで連れて行き、

「このつるべで、桶(おけ)に水をいっぱい入れなさい。」

と言ったのです。

男は、つるべで水を汲もうとしました。しかし、そのつるべには底がありませんでした。そんなつるべで、水が汲めるはずもありません。

男は、店を出ようとする自分を、主人が恨んでいるのだろうと思いましたが、まじめな男でしたので、つるべを数回井戸に下ろしてはあげてみました。男は、つるべからポトポトと滴(したた)る水があることに気づきました。

男は、そのしずくを桶に溜めることにしました。男は、一昼夜かけて、とうとう桶に水を満たしました。

(さて、それを終えて、男は何を思ったでしょう。)

男は、辛抱(しんぼう)が第一という主人の情けのこもった教訓がはらわたに浸み込み、涙をもって感謝したといいます。



雇い主と勤め人とのこのような関係は、今の時代、そうそう見ることはないかもしれません。

しかし、ここで教えているのは、

何事も辛抱(しんぼう)して、こつこつやっていくことの大切さなのですね。

いつの時代でもそうですが、一足飛びに、ことが成るということは考えない方が良いでしょうね。